はじめに
この文書では、ASTEのOn-The-Fly (OTF)観測システムについて解説します。 詳細は Sawada et al. 2008, PASJ, 60, 445 (arXiv:0712.1283) をご参照ください。
OTF観測とは、 観測領域を連続的にスキャンしながら短い時間間隔でデータを取得していく マッピング観測の手法です。 通常のposition switch観測と比較して、以下のような利点があります。 ビームに比べて十分広い領域を比較的浅い積分で掃く場合に、とくに効果を発揮します。
- dead timeが減り、観測効率が向上する(詳細は次節)。
- マップ全面を短時間で掃けるため、その間のシステムの変動 (大気の状態, ポインティング, ...)が少ない。
- Nyquistレートより細かくデータを取得するため、 空間情報を失わない。
以下のようなドキュメントも参照してください。
- Mangum, Emerson, & Greisen 2007, A&A, 474, 679 (ADS)
- Kitt Peak 12-m: http://www.cv.nrao.edu/~jmangum/12meter/docs/otfdoc.ps
- FCRAO 14-m: http://donald.astro.umass.edu/~fcrao/library/manuals/otfmanual.html
- IRAM 30-m: http://iram.fr/IRAMES/groups/astronomy/OTF/HTML/sl-otf.html
- SMTO 10-m: http://www.mpifr-bonn.mpg.de/div/hhertz/smto-otf-guide/smto-otf-guide.html
OTF観測におけるスキャンパターンの概念図を図1に示します。 図中「on-source」とあるのがスキャンの本走(以下、単に「スキャン」と呼ぶ)で、 この間アンテナは一定速度で駆動され、 0.1秒(ACG)または0.2秒(WHSF)間隔でデータの取得が行われます。 スキャン中にアンテナが目的の方向を向くよう、 各スキャンの前に「approach」(助走)が入ります。 スキャンとスキャンとの間にOFF点が入らない場合(図1-1下)には スキャン終了点からapproach開始点への移動「transit」が入ります。 以上は連続波のraster観測の場合と同様です。 approachおよびtransitには、それぞれ4秒, 2秒をかけることを推奨します (ASTE会議2005/03/10資料を参照)。
通常のposition switch ("step-and-integrate")観測と同様、 観測の最初および適当なタイミングに"chopper-wheel"キャリブレーション(R-SKY)データを取得する必要があります。 OFF点は各スキャンの前、あるいは数スキャンに1回の割合で取得します。
図1-1:スキャンパターンの概念図。
(上) 観測シーケンス「1*」 (OFF-ON)の場合、
(下) 観測シーケンス「1**」 (OFF-ON-ON)の場合。
観測の結果として、Nyquistレートより細かい間隔で取得されたデータ点によって マップ領域が埋め尽くされます。 データ点は規則正しいグリッド上には並ばないので、 convolutionをかけることにより正方格子のマップを作成します。 リダクションソフトに実装されているconvolution関数は以下のとおりです(図1-2):
- 1次Bessel関数とGaussianの積
ただしrはグリッド点とデータ点の間の距離 [pixels]、 a=1.55/, b=2.52。 「その他の情報」も参照。 - Sinc関数とGaussianの積
ただしrはグリッド点とデータ点の間の距離 [pixels]、 a=1.55/, b=2.52。 - Gaussian
ただしrはグリッド点とデータ点の間の距離 [pixels]、 a=1。 - Pillbox (Cell-averaging)
ただしx, yは グリッド点とデータ点の間のX方向, Y方向のオフセット [pixels]。
以上4つの関数はMangum (1999); Mangum, Emerson, & Greisen (2000)によります。 - Spheroidal関数
ただしx, yは グリッド点とデータ点の間のX方向, Y方向のオフセット [pixels]、 x = 2x/m、 y = 2y/m。 詳細はSchwab (1984)を参照。
MapのGUIで指定する二つのパラメータは、それぞれ Schwab (1984)でのパラメータm(=4,5,6,7,8)と (=0.0,0.5,1.0,1.5,2.0)。
図1-2:実装済みのConvolution関数
Bessel*Gauss (a=1.55/,
b=2.52),
Sinc*Gauss (a=1.55/,
b=2.52),
Gauss (a=1.0),
Pillbox,
Spheroidal (m=6, =1.0)。