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研究成果バックナンバー
若い惑星系に残るガスは塵から供給された-炭素原子ガスの検出で分かったガスの起源-(2017.04.10)
理化学研究所(理研)坂井星・惑星形成研究室の樋口あや協力研究員、坂井南美主任研究員、茨城大学の佐藤愛樹大学院生、百瀬宗武教授、名古屋大学大学院理学研究科の小林浩助教らの共同研究グループは、アステ望遠鏡(ASTE)を用いて地球から60光年以上離れたくじら座49星(49 Ceti)およびがか座ベータ星を電波観測し、これらの星を取り巻く「デブリ円盤」に炭素原子ガスが存在することを発見しました。炭素原子ガスは、円盤に含まれる一酸化炭素分子ガスの量の数十倍も存在していたのです。星間空間の炭素原子は、一酸化炭素分子が紫外線にさらされ壊された結果生成されますが、水素分子があると一酸化炭素分子に戻る化学反応も同時に進みます。従って、デブリ円盤には水素分子ガスが少なく、主に塵同士の衝突などで新たにガス成分が供給されているという「供給説」を支持する結果が示されました。
詳しくは、プレスリリースをご覧下さい。
天の川を撃ち抜く超音速の『弾丸』を発見
〜正体は「野良ブラックホール」か?〜 (2017.1.16)
慶應義塾大学大学院理工学研究科の研究チームは、国立天文台ASTE望遠鏡および野辺山45 m電波望遠鏡を用いて、天の川銀河の円盤部で発見された超高速度分子ガス成分「Bullet (弾丸)」の電波分光観測を行い、その詳細な空間構造・運動・物理状態を明らかにしました。その結果、このBulletは5000年から8000年前に起きた局所的な現象によって駆動された成分である事が分かりました。
Bulletの膨大な運動エネルギーと空間・速度構造、そして今現在この方向に天体が見られない事を考え合わせると、駆動源は一時的に活性化したブラックホールである可能性が高いと考えられます。現在、天の川銀河には、1億個から10億個のブラックホールが浮遊していると考えられています。今回の発見は、これまで観測する手段のなかった、伴星を持たない「野良ブラックホール」に迫る極めて先駆的なものです。
詳しくは 国立天文台の研究成果ページをご覧ください。
星間分子雲中を通過する超新星衝撃波の"速度計測"に成功 (2013.8.9)
慶應義塾大学らの研究チームは、わし座にある超新星残骸W44の衝撃波の膨張速度を精密に計測することに成功しました。その速度は毎秒12.9kmに及び、超新星爆発で星間物質に投入されたエネルギーは、太陽が1秒間に放出するエネルギーの10億倍のさらに1億倍という莫大なものであることがわかりました。さらに、秒速100kmを超える極めて大きな速度を持つ分子ガスも発見されましたが、その起源はまだわかっていません。
超新星爆発は周囲の星間物質にさまざまな影響を与え、星の誕生を促したり逆に星の材料を吹き飛ばしてしまったりすると考えられています。今回の研究では、その影響の一端が明らかになりました。今後のより詳しい観測で、超高速成分の起源を解明したいと研究チームは考えています。
詳しくは 国立天文台の研究成果ページをご覧ください。
超伝導サブミリ波カメラ、ファーストライトに成功! (2013.3.11)
2012年6月、超伝導遷移端センサー技術 (TES) を用いた新型ミリ波サブミリ波カメラをASTE望遠鏡に搭載し、ファーストライトを受信することに成功しました。左の画像は、月の 270 GHz (左) および 350 GHz (中央) の「電波写真」です。この2つの画像の強度から月面の色温度を測定すると、太陽光が当たっている部分で温度が高いことがわかります (右)。現在開発チームではさらなる高感度化に着手しており、2013年後半の再搭載と科学観測の開始を目指しています。
天の川銀河の中心部で「ぶたのしっぽ」分子雲を発見(2012.9.4)
慶應義塾大学の松村真司氏、岡朋治准教授らの研究チームは、国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45メートル電波望遠鏡を用いた観測によって、特異ならせん状構造を有する分子雲を発見しました。研究チームは、分子雲の形態から「ぶたのしっぽ(pigtail)」分子雲と名付けました。 「ぶたのしっぽ」分子雲は、太陽系から約3万光年の距離にある天の川銀河の中心部に位置しています。天の川銀河の中心部においては、巨大分子雲は銀河中心を周回する二つの軌道群に沿って運動しています。「ぶたのしっぽ」分子雲の根元は、この二つの巨大分子雲の軌道が交差する位置にあたります。研究チームは、この領域で観測された複数の分子スペクトル線を詳細に解析し、異なる軌道にある二つの巨大分子雲がまさに「ぶたのしっぽ」分子雲の根元で衝突していることを明らかにしました。これらのことから、「ぶたのしっぽ」分子雲のらせん状構造は、二つの異なる軌道にある分子雲がこすれるように衝突し、そこでねじられた磁力線の束に伴う構造であると考えられます。
(補足)ガスのらせん形状は、ねじれた磁力線が原因と考えられています。太陽コロナ(太陽の上層大気を覆う、温度およそ100万度の非常に高温なプラズマガス)や銀河中心にある超巨大ブラックホールと関連したジェット等の磁力が関わる天体現象で時折見られる構造です。
詳細な解説はこちらをご覧ください。
「隣」の銀河の星の材料、全貌の把握に成功(2011.12.22)
国立天文台の小麥真也助教と上越教育大学の濤崎智佳准教授を中心とする研究グループは、我々の住む天の川銀河に最も近い銀河の一つであるさんかく座銀河(M33、距離270万光年)において、星の”ゆりかご”となる物質の、広域かつ精密な地図を世界で初めて完成させました。
研究グループは、長野県にある「野辺山45m電波望遠鏡」と南米チリの標高4800mのアタカマ砂漠に設置された直径10mの「アステ望遠鏡」で合計1000時間以上を費やし、M33に分布する星の材料になる「分子ガス」と、分子ガスを作り出す工場の役目を果たす「低温の塵(ちり)」の観測を行いました。分子ガスの観測についてはこれまでのM33銀河のデータと比べると約3倍の解像度を達成し、塵については初めての観測となりました。
銀河の中には、太陽の10万倍もの質量と100光年にも及ぶサイズを持つ「巨大分子雲」と呼ばれる分子ガスと塵の塊があり、星の作られるメカニズムを知る上で重要な構造です。今回の観測によって、満月の2倍以上に広がっている見かけ上非常に大きなM33銀河で、巨大分子雲を一つ一つ見分けることができる精密さで、分子ガスと塵の全貌を明らかにすることができました。私たちの住む天の川銀河系以外の銀河に対して、巨大分子雲を一つ一つ識別できる精密さで、銀河全域にわたる分子ガスと低温の塵の広範な地図を作ることができたのは本研究が初めてです。
このようにして得られた分子ガスと塵の高精度な地図は、銀河の中で、どのように分子ガスが生産され、星に生まれ変わっていくか、という現代天文学の大問題を解明する重要な手掛かりになると考えられます。
詳細な解説はこちらをご覧ください。